「人を動かす」のではなく、「人が自らそうしたくなる場をつくる」

2026年8月に開催された「“EMPOWER” 自己決定を支える『任せる』教育の本質を紐解く フィンランド教育視察プログラム」に参加した、Shioriさんに視察での体験を言葉にしてまとめていただきました。

なぜフィンランドへ

 私は、子どもの言語コミュニケーションの発達について興味を持っていました。子どもに「話してほしい」「やってほしい」と促したり求めたりするだけでなく、子ども自身が「話してみたい」「やってみたい」と自然に思える場をどう作るかが、私の関心ごとでした。大人が子どもに対し一方的に何かを促すのではなく、背景となる場を整えることで、子どもが自分の持つ力を最大限に発揮できるようになればいいなと思っていました。

 フィンランドに興味を持ったきっかけは、フィンランドの学校へインターンに行った人が身近にいたことです。フィンランドでは、子ども一人ひとりの思いを聞き、子ども自身が選択することを大切にしていると聞いて、子どもの「話したい」「やってみたい」という気持ちを引き出す場づくりのヒントが、フィンランドにあるのではないかと思いました。

フィンランドで見つけたヒント

 ここでは、フィンランド訪問を通して、特に印象的だった事例を紹介します。

◆ 憩いの部屋とコーヒー

 生徒たちが学校で憩いのひとときを過ごせるように、ソファなどを置いた部屋が用意されたそうです。「休んでね」「リラックスしてね」とただ声をかけるだけでなく、ソファを置くことで、自然にリラックスできるような環境をつくっている、それだけでも素晴らしいと感じたのですが、工夫はそれだけではありませんでした。当初は、利用する生徒が固定され、思ったほど人が集まらなかったそうです。そこで、コーヒーを1杯無料で飲めるようにしたところ、憩いの部屋を利用する子が増えたそうです。子どもに利用を促すのではなく、自然と足を運びたくなるきっかけを用意する。そのさりげない工夫が印象的でした。

◆ ユースセンター職員と子どもたちの関わり

 若者の孤立を防ぐことを目的とした余暇施設であるユースセンターでは、職員の方に子どもたちとの関わりで大切にしていることを伺いました。それは、「自分たちがavailableでいること」だそうです。忙しそうにしていると、子どもたちは声をかけづらくなります。そのため、施設内をふらふらと回り、その場にいて、いつでも話しかけられる状態でいることを大切にしていると聞きました。「何かあったら話してね」「いつでも聞くからね」という言葉はよく耳にします。しかし、言葉で伝えるだけでは、話しかけるための一歩を子どもに委ねることになります。ここではその一歩の負担を小さくし、自然に声をかけたいと思える場をつくっているのだと感じました。

◆ 体育の授業と子どもの選択

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 体育の授業で印象に残ったのは、子どもの意欲に応じてグループを分けていたことです。身体能力や実力で分けるのでも、平等を重視して得意な子も苦手な子も一律に同じグループで取り組むのでもありません。「ハードに取り組みたい」「緩やかに体を動かしたい」といった希望に応じて、参加の仕方を選べるようにされていました。同じ活動への参加でも、どの程度取り組みたいかを子ども自身が選択できる点に、子どもの意思を大切にする姿勢が表れており、いいなと感じました。

◆ 生徒議会選挙

 フィンランドでは、民主主義の観点から生徒議会(Studentカウンシル)の活動が活発です。議会に参加するため代表を決める選挙が行われるそうですが、私は最初、学校で人気のある子でなければ選ばれにくいのではないかと思いました。しかしフィンランドでは、学校になじめていない場合でも、別の機会に選挙に挑戦できる仕組みがあるそうです。一つの表現手段だけでその子の可能性を決めてしまうのではなく、異なる形で参加し、自分の意志を示せる機会が用意されていることが印象に残りました。

フィンランドから持ち帰ったもの

今回の訪問で特に学びになったのは、「人を動かす」のではなく、「人が自らそうしたくなる場をつくる」という視点です。憩いの部屋やユースセンターの例では、自然と足を運びたくなったり、職員に話しかけたくなったりするような場づくりがされていました。体育の授業と生徒議会選挙の例では、本人の意志が表せる選択肢や機会が十分に用意されていました。こうした環境があるからこそ、子どもが自ら活動に関わることにつながるのだと思います。

 子どもに行動を促したり求めたりするのではなく、子ども自身が自然とそうしたくなる場をどう作るのか。そうした場づくりの視点を大切にしたいと思いました。今回のフィンランド訪問で得たのは、子ども一人ひとりの意思を大切にしながら、「話してみたい」「やってみたい」という気持ちが自然に生まれる場づくりをするためのヒントでした。 


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