2026年8月に開催された「“EMPOWER” 自己決定を支える『任せる』教育の本質を紐解く フィンランド教育視察プログラム」に参加した、Tomomiさんに視察での体験を言葉にしてまとめていただきました。
「あなたはどう思う?」から始まる教育
「教員は指示をするのではなく、生徒に適切な問いを立てることを大切にしている」
フィンランドの高校で聞いた先生の言葉です。
答えを教えるのではなく、「あなたはどう思う?」「なぜそう思う?」と問いかける。生徒自身が考え、選び、行動することを大切にしている姿が印象に残りました。
Moi!私は石川智美です。私は現在、療育の仕事や不登校支援の活動をしています。以前から北欧教育に興味があり、「実際の学校を見てみたい!」という思いを叶えるため、2026年8月に、UpEdフィンランド教育視察ツアーに参加しました。
ツアーのテーマは「EMPOWER」
子どもが本来持っている力を発揮するには、どのような教育や環境が必要なのか。自信を持って自分で選択し、行動できるようになるためのヒントを探しに、公立学校やユースカウンシル、ユースセンターなどを巡りました。
1.若者の声が社会を動かす「ユースカウンシル」

最初に訪れたのは、13〜17歳の若者が参加するユースカウンシル(若者議会)です。
フィンランドでは、2015年に法律によって、すべての自治体にユースカウンシルの設置が義務づけられています。若者は意見を述べるだけでなく、実際の政策や予算の使い道にも関わっています。
私が一番驚いたのは、「若者議会には、法律と予算がある」ということ。
バスへのUSBポートの設置、音楽フェスやゲームイベントの開催、経済的に厳しい若者の旅行支援など、若者自身のアイディアが実現しています。
「自分たちの街をこうしたい」という声が、単なる意見で終わらず、社会を変える力になっているのです。
そして、その活動を支えるのがユースワーカーです。若者が責任を背負いすぎて疲れてしまわないよう、仕事を分担したり時間を調整したりと、若者自身のWell-beingも大切にしていました。
2.やってみたい!を応援する「ユースセンター」
ユースセンターは、若者が安心して過ごし、自分の好きなことに挑戦できる公共施設です。
ダンスイベントなどが開催できるスポーツホール、陶芸ができるクラフトスタジオ、ゲームルーム、バンドルーム、キッチンなど設備がとても充実していて、基本的に無料で利用できます。
興味深かったのは、こうした設備が若者の声をもとにつくられていること。
ここにもユースワーカーがいて、活動を応援したり、悩みがあれば必要な専門機関につないだりします。
ただ場所を提供するだけではなく、若者の「やってみたい」を受け止め、挑戦を支える仕組みがありました。
3.学校にあるのは、学ぶ場所だけではない

公立の小中一貫校では、子どもたちだけでなく、先生のWell-beingも大切にされていることが印象的でした。
音楽室にはたくさんの楽器があり、休憩時間にも自由に演奏できます。高学年の子どもたちには、卓球やエアホッケーなどでリフレッシュできる部屋もありました。
先生のための「ティーチャーズラウンジ」は、まるでリビングルーム。ソファーでコーヒーやお菓子を楽しみながら、雑談やパズルをして過ごせる空間です。
さらに、心理カウンセラーやソーシャルワーカーなどの専門職も校内にいて、担任や保護者と連携しながら子どもを支えています。
見学した6年生の担任の先生は、一人ひとりに必ずポジティブな言葉をかけていました。子どもを信頼し、任せている姿に、大人の余裕を感じました。
4.一人ひとりの可能性を狭めない特別支援
特別支援学級は、特性や学習段階に応じて4つのクラスに分かれ、1クラス6〜7名。
先生方のお話からは、「いろいろな個性の子どもがいるのは当たり前」「誰にでも必ず優れたところがある」という考え方が伝わってきました。
特に心に残ったのは、支援が必要だからといって、その子の可能性を狭めないという姿勢です。
本人や保護者と相談しながら、一人ひとりに合わせた学習プログラムをつくり、勉強だけでなく料理や生活に必要な力も育てています。
「誰一人取り残さない」。その子が生きていくために必要な環境を整えることこそ、支援なのだと感じました。
5.中学生と折り紙で国際交流!

視察では、私たちが中学生に日本文化を紹介する機会もありました。
私たちのグループは折り紙を担当。歴史を紹介した後、一緒に手裏剣をつくり、最後は手裏剣ゲームを楽しみました。
日本のマンガやアニメが人気で、忍者や手裏剣を知っている生徒が多かったことにもびっくり!言葉や文化を超えて交流できた、楽しい時間でした。
6.自分で考え、挑戦する高校の教育
フィンランドでは、普通高校と職業学校に上下の区別はなく、自分の適性や興味に合わせて進路を選びます。
今回訪問した高校では、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育に力を入れていました。生徒が自分で課題を見つけ、考え、試してみる。会社をつくることだけでなく、社会との関わり方や自分らしい生き方まで考える学びです。
履修する科目やスケジュールも、自分で決めていました。
また、高校には先生と生徒それぞれがほっとできる場所があります。生徒のための「プレッシャーフリーな場所」は、コーヒーを飲んだり、バスを待ったり、ただゆっくり過ごしたりできる空間。そこには、先生でも親でもない、気軽に話せるコミュニティコーディネーターがいます。
安心できる場所と、何気ない会話ができる大人の存在。これも大切な教育環境の一つだと感じました。
7.図書館は「市民の共有リビングルーム」

最後に訪れたのは、ヘルシンキ中央駅近くにあるOodi図書館です。
フィンランド独立100周年を記念して国と市から国民に贈られた施設で、コンセプトは「市民の共有リビングルーム」。
本を読むだけではありません。ミシンや3Dプリンターで何かをつくったり、ゲームをしたり、カフェで過ごしたり。誰もが自由に集まり、学び、交流できる場所です。
高齢者や移民の方へのデジタルサポートなども行っており、地域の孤立を防ぎ、人と人をつなぐことも図書館の大切な役割になっています。
また、キッズルームでは赤ちゃんと過ごす親子の姿があり、平日にもかかわらず半分くらいがパパだったことが印象的でした。街でもパパ同士でベビーカーを押す姿を見かけ、男性の育児参加が自然に根付いていることを感じました。
8.視察を終えて見つけた「3つのY」
さまざまな場所を巡り、私が共通して感じたこと。それは、「余白・余裕・予防」=3つのYです。
余白とは、何もしなくていい時間や、安心してリラックスできる場所があること。気軽に雑談できる人がいて、無理をせず自分らしく過ごせることです。
その余白があるからこそ、子どもにも大人にも余裕が生まれます。人の話を聴いたり、小さな変化に気づいたり、相手を信頼して見守ることができるようになります。
そして、その余裕が、問題が深刻になる前に気づき、必要な支援につなげる予防につながっているのではないでしょうか。
今回のテーマ「EMPOWER」。子どもや若者が自分の力を発揮するためには、本人の頑張りだけではなく、それを支える環境と大人の存在が必要です。
大人がすべてを決めるのではなく、環境を整え、話を聴き、信頼して見守る。そうすることで、子ども自身が考え、選び、行動する力が育っていくのだと思います。
フィンランドの制度をそのまま日本に持ってくることはできません。でも、子どもを信頼すること、安心できる居場所をつくること、そして大人も余白を持つことは、私たちの地域でもできるはずです。
今回の視察で得た学びを、これからの地域での活動や子どもたちとの関わりに生かしていきたいと思います。